障害を持つ子と上手に接するには、ちょっとしたコツがあります。
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「感覚統合療法」遊びや運動で脳に刺激を与える療育方法
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「TEACCH・ティーチ」時間や場所や手順を構造化する療育方法
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「PECS・ペクス」絵カードと実物を交換させる療育方法
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「ABA・応用行動分析」ご褒美の強化子とプロンプトの療育方法
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「言葉かけ」の具体例、障害を持つ子への話し方、接し方
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療育で障害そのものが治るわけではない。
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発達障害の治療薬、効果や副作用は?
いろんな療育方法を組み合わせて、その子の特徴にあった方法を選びましょう。
療育とは、何だろう?、発達障害者・知的障害者の療育
療育とは、障害児を医療的に育成することです。
障害児の成長や自立支援のための、
- 医療
- 治療
- 育成
- 保育
- 教育
この組み合わせが「療育」です。
発達障害児は個性が強いので、日常生活でいろんな問題がでてきます。お友達と仲良くできずに孤立したり、周囲の人から誤解されたりします。発達障害児の家族も、支援をしても成果が見えずに、なかなか先が見通せません。
障害児をただ助けるのではなく、本人の成長を促すことも大切です。手助けする「支援」と、本人の成長を促す「療育」の2つを意識しましょう。
療育に取り組むには、療育についての正しい知識がないと、目標に向かって努力することはできません。発達障害児とその家族が、安心して障害と向き合う努力ができるようになるために、しっかりとした療育の知識を身につけましょう。
しっかりとした療育の知識を身につけましょう。
感覚統合療法、感覚が偏った障害児の感覚を、正しく働かせる療育の方法
感覚統合療法は、遊びや運動で脳に刺激を与える療育方法です。
感覚統合療法とは?
Sensory Integration Approach
感覚統合療法とは、感覚が偏った障害児に、遊びや運動で刺激を与え、いろんな感覚を正しく働かせることにより、日常生活に適応させる療育方法です。
感覚統合療法はアメリカの作業療法士エアーズが考案したリハビリテーションの方法です。現在、日本の多くの療育現場でも、この感覚統合療法が活用されています。
専門的な遊具を備えた療育施設では、もちろん大きな効果が期待できます。しかし、近くの公園の遊具でも、十分に子供の感覚を刺激することができます。
感覚統合療法の最大の特徴は、遊びの中で障害児の感覚を成長させるので、親子で楽しみながら療育ができることです。
公園のブランコでも、感覚統合療法
例えば、ブランコなら、
- 手で鎖を握る感覚
- 目で周囲を見る視覚
- 座ってバランスをとる感覚
- 体重移動で前後に揺らす感覚
- 足を揺らす感覚
このように、ブランコで遊ぶことでも、いろんな感覚を働かせ、手の握力や、体のバランスをコントロールする感覚を統合する訓練ができます。
いろんな遊具で、感覚統合療法ができます。
ブランコの他にも、感覚統合療法に効果がある遊具は、たくさんあります。
- ジャングルジム
- うんてい
- 鉄棒
- すべり台
- ボール遊び
- 縄跳び
- 平均台
- とび箱
- シーソー
- 三輪車
公園の遊具で遊びながら、感覚統合療法で、楽しく療育しましょう。
感覚統合とは?
感覚統合とは、感覚からの刺激により、脳で考え、行動を決めることです。発達障害児は、この感覚統合がうまく行えません。
人間には、たくさんの感覚があります。
- 目で見る視覚
- 耳で音を聞く聴覚
- ものの味を感じる味覚
- 臭いを感じる嗅覚
- ものに触れた刺激を感じる触覚。
五感と呼ばれる目、耳、舌、鼻、皮膚で感じる人間の感覚です。
人間の感覚はこの他にもあります。
- 体の傾きやバランスや動きを感じる平行感覚。
- 熱さや冷たさを感じる温度感覚。
- 痛みを感じる痛覚。
- 筋肉などから伝わる、力加減や手足の動きや位置を感じる、固有感覚。
固有感覚は運動感覚とも呼ばれます。このように人間には、いろいろな感覚があります。
発達障害の子は、原子系の行動が多い特徴があります。
人間は、いろんな感覚からの刺激で行動を決めています。
感覚が刺激を感じて、頭脳で考え、行動する、この過程を感覚統合といいます。
痛かったり、驚いたりすると、とっさに飛び跳ねたり、手を引っ込めたりします。何か危険に遭遇したときに反射的に行動するのが、原始系の行動です。
それに対して、状況を判断してから考えて行動するのが、識別系の行動です。
注射は痛い、このことは小さい頃からの経験で誰でも知っています。痛いことが予めわかっているので、我慢ができます。このように識別系の行動が、原始系の行動を抑制しています。
発達障害の子は、識別系の行動ではなく、反射的に原始系の行動が多く見られます。感覚統合療法では、障害児の偏った感覚を刺激し、感覚をバランスよく正しく働かせ、日常生活への適応させます。
偏った感覚を刺激し、感覚をバランスよく正しく働かせるのが、感覚統合療法です。
TEACCH・ティーチ、時間や場所や手順を構造化する療育方法。
TEACCHとは、視覚効果で構造化する療育の方法です。
TEACCH・ティーチとは?
TEACCH・ティーチとは、Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped Childrenの略で、自閉症と関連するコミュニケーション障害の子供たちへの療育という意味です。
TEACCH・ティーチの療育方法は、視覚的な効果を活用して、時間、空間、手順を区切って、障害児が理解しやすくします。時間や空間、手順を区切ることを、構造化すると呼んでいます。
TEACCH・ティーチの具体的な方法
時間の構造化
時間の概念が理解できない障害児には、1日のスケジュールを、絵に描いた予定表で理解させる。
場所・空間の構造化
食事をする場所、勉強をする場所、着替える場所、何をするかの目的別に場所を決める。そうすることで、障害児自身が今自分が何をすべきかを理解できるようになります。
手順の構造化
何をやっていいか理解できない障害児には、やることの順番を絵に描いた手順表を作って、やることを明確にする。
朝起きる。顔を洗う。着替える。朝食を食べる。トイレに行く。歯を磨く。学校に行く準備をする。このように手順をイラストにして、手順表を壁に貼り、障害をもつ子が混乱しないようにします。
PECS・ペクス、絵カードと実物を交換させる療育方法
PECSは、視覚効果を活用する療育の方法です。
PECS・ペクスとは?
Picture Exchange Communication System
PECSとは、絵カード交換式コミュニケーションシステムといい、言葉や会話が苦手な障害児に、絵カードを使ってコミュニケーションを自発的に促す療育方法です。
自閉症スペクトラムの障害児の療育に多く使われる、PECS・ペクス。
このPECSは、アメリカで自閉症の障害児を対象に考案されました。TEACCHと同様に、PECSは絵カードで、自閉症スペクトラムの障害児の特徴の、視覚的な効果を活用しています。
実際の療育現場の多くで、このPECSの絵カードを使った療育が行われています。
PECS・ペクスの方法
PECSの第1段階
PECSの第1段階では、障害児が興味を持つ物の絵カードを渡して、絵カードと、その物を交換します。リンゴの絵カードを持たせて、リンゴの絵カードと実際のリンゴを交換します。この時に「リンゴ」を言って、言葉も意識させます。
次の段階では、障害児に欲しい物の絵カードを、自分で取らせます。リンゴの絵カードを障害児に自分で取らせて、実際のリンゴと交換します。
PECSの第2段階
さらに次の段階では、複数の絵カードの中から、障害児が欲しい物の絵カードを選ばせます。いろんな果物の絵カードの中から、リンゴの絵カードを選ばせて、実際のリンゴと交換します。
大人が欲しい物はなに?と質問して、障害児に絵カードを選ばせ、実際の物と交換します。会話での質問に答える訓練になります。
PECSの3つのポイント、絵カードと実物と言葉。
このように、絵カードと実際の物を交換し、言葉を発することを繰り返すことで、欲しい物を相手に伝えるコミュニケーション能力を高めます。絵カード交換の時に、大人が言葉を発することで、障害児にも言葉や会話によるコミュニケーションを促します。
ABA・応用行動分析、ご褒美の強化子とプロンプト。
ABAは、良い行動にご褒美を与え、その行動を定着させる療育方法です。
ABA・応用行動分析とは?
Applied Behavior Analysis
ABA・応用行動分析とは、その子の行動を観察して、いい行動を増やして、悪い行動を減らしていく療育方法です。
いい行動ができたときは、褒めたり、ご褒美をあげたりして、そのいい行動が定着するようにします。これを、行動を強化すると呼び、ご褒美のことを強化子と呼びます。いい行動を促すために与えるヒントを、プロンプトと呼んでいます。
ABA・応用行動分析の具体的な方法
障害児が自発的にいい行動を行うように、プロンプトや強化子を与えて、行動を強化することが、ABAの基本です。
障害児が悪い行動をとった場合は、無視します。問題行動をしても無視して関心を示さないことで、障害児にかまってもらえないことを理解させます。そのうち、誰からも相手にされないと、その悪い行動が減ってきます。
言葉かけの具体例、障害を持つ子への話し方、接し方
障害を持つ子への、効果的な言葉かけの具体例を紹介します。
障害を持つ子を褒める。障害児への言葉かけ。
なんでも褒める。とにかく褒める。ほめてあげることが大切です。
発達障害の子は叱られる行動を多くしますが、わざとではありません。叱った直後には必ず褒める。悪いことをして叱った直後に、やめてくれてありがとうって褒める。叱るより、褒めることが効果があります。
短い言葉で簡潔に話す。障害児への言葉かけ。
長文で話すのはやめましょう。障害児には長い会話が苦手な子がいます。短い言葉で簡潔に話すようにしましょう。
前のことが終わって、次のことを言う。障害児への言葉かけ。
何かを伝える時は、ひとつひとつ話すようにしましょう。
障害児には、ひとつのことを始めると他のことを思い出せない子がいます。複数のことを覚えられない子もいます。「手を洗ってから、おやつを食べてね。」と言っても、すぐにおやつを食べ始める子もいます。「手を洗ってね」、手を洗い終わったら、「おやつを食べてね」と、1つのことが終わったら、次のことを伝えましょう。
聞く状態にしてから話す。障害児への言葉かけ。
話し始める時には、まず注意をひいて、聞く状態にしてから伝えましょう。
声をかけるときに「これから説明するね。」と言って、振り向かせてから、会話を始めましょう。障害児には、喋りかけられても、意識が他のことに向いている場合が多くあります。聞く用意ができずに話し始めると、障害児には内容が伝わりません。まずは、注意をひいて、聞く状態にしてから、話すようにしましょう。
曖昧な表現は使わず、具体的に話す。障害児への言葉かけ。
発達障害の子には、抽象的な言葉を使わず、具体的な言葉で伝えましょう。
「きちんと片付けなさい。」では、うまく伝わりません。「本を本棚に片付けて。」と具体的に伝えましょう。本人が理解できないことを叱っても、効果がありません。叱るより、具体的な方法を伝えるほうが効果があります。
実際の物、絵や写真を見ながら話す。障害児への言葉かけ。
できるだけ実際の物を見せながら話しましょう。
「水を止めてね」と言って理解できても、またすぐに忘れる子がいます。障害児には、会話が苦手でも、視覚情報の理解力と記憶力がすごく高い子もいます。水道の蛇口を回すのを見せながら「水を止めてね」と伝えると記憶が続きます。実際の物が見せられない場合は、絵や写真でも効果があります。視覚的な効果を使って、話すようにしましょう。
療育で障害そのものが治るわけではない。
障害は生まれつきのもの、障害そのものは治らない。
療育に取り組んでも、障害そのものが治るわけではありません。
しかし、療育によって、脳への刺激、生活のマナー、コミュニケーションの方法など、いろんな経験を積むことによって、日常生活の適応能力を高めることができます。
療育は、地域の障害児支援センターなどで受けることができます。
乳幼児の健診で、障害の診断を受けた場合は、自治体の療育施設で、療育を受け始めます。療育施設では、作業療法士や医師の指導で療育を受けることができます。
自治体が運営する療育施設は、無料の場合が多く、経済的負担が少ないです。療育を希望する場合は、まず、住んでる自治体の障害福祉の窓口に相談しましょう。
療育の方法はいろいろ。
療育の方法は様々で、親子で参加する方法や、親は参加せず別室に隔離される方法もあります。障害児1人だけの場合や、集団で行う療育方法もあります。療育の内容は、障害の程度で違いますし、療育施設によっても違います。
一般的な療育の内容は、食事、身支度、運動、読み聞かせ、などです。専門家との面談も受けられる場合が多いです。
療育施設の療育は、週に1回か2回程度です。この療育だけで、障害児の成長に十分ではありません。家庭での日々の療育が大切です。療育施設の専門家の方の療育方法、障害児への接し方を学んで、家庭での子供への療育に活かしましょう。
ひとりで悩まないこと。
自分の子供以外の障害児を見ることも、障害児のいろいろな特性を理解する勉強になります。また、療育施設では、同じ悩みを持つ障害児の親同士が知り合えます。
ひとりで悩まず、同じ悩みを持つ親同士が、相談することで、気持ちが楽になります。
発達障害の治療薬、効果や副作用は?
発達障害に有効な薬はあります。しかし、副作用があります。
発達障害の治療薬の使用について
発達障害には、薬の使用が有効な場合があります。当然ですが、薬の服用は子供への身体的・精神的な影響があります。そこを慎重に考慮した上で、必要な場合は薬の使用を検討しましょう。
最初に、私はできるだけ薬を使用したくないと考えています。私の娘は、発達障害ですが、薬は使用していません。また、これからも薬は使用したくないと、私は考えています。
発達障害の治療薬、効果と副作用
ただ、障害によっては、薬の使用が効果的な場合もあります。私の知ってるADHDの発達障害児で、以前は教室を立ち歩いていた子が、治療薬の服用で今では静かに座ってられるようになっています。薬以外のいろんな療育を試した上で、どうしても治療薬が必要と感じた場合にだけ、薬は服用するようにしましょう。子供に副作用で何があっても、お医者さんは責任を取ってくれません。最終的な全ての責任は、障害児の親である私たちにあるんですから。
信頼出来る、公的な療育施設で治療薬の相談をしましょう。
まずは、薬の使用が有効な症状なのかを確認することです。その次に、信頼できる医療機関を探すことです。いきなり病院に行って、相談するのは絶対やめましょう。
これについては、役所が運営する公的な療育施設の療育や、そこの所属医師の先生の意見を聞きましょう。子供の障害の症状は、発達障害が原因ではなく、その子の置かれている生活環境が障害と似た症状を発生させている可能性もあります。
例をあげると、自閉症の障害児がパニックを起こす原因が、特定の音であったり、普段と違う場所であったりする場合があります。その状況では、薬の使用より、原因となる音や場所という、環境を整えることが、根本的な解決につながります。薬の使用によって一時的に、どんな音でも場所でも大丈夫な、完璧な人間に作り変える必要はないのです。
注意欠如多動性障害ADHDの子への代表的な薬
商品名ストラテラ(製薬会社日本イーライリリーが販売)
ストラテラの成分はアトモキセチンで、カプセル剤です。日本で認可されているADHDの治療薬です。
カプセル剤が苦手な人向けに、液剤タイプも販売されています。
ストラテラは、1日2回服用します。効果はゆっくりあらわれ、服用を始めて半月から1ヶ月程度で、ADHDの症状が落ち着き始めます。服用をやめると、効果がなくなり、ADHDの根本的な治療はできません。
副作用は、肝機能障害、黄疸、肝不全などがあります。
ストラテラは、子供にも大人にも処方されます。ただし、6歳未満の幼児の有効性及び安全性は確立されていません。
商品名「コンサータ」(製薬会社ヤンセンファーマが販売)
コンサータは、日本で認可されているADHDの治療薬です。
成分はメチルフェニデートという中枢神経刺激薬の、錠剤です。ADHDの子供には鎮静効果があります。ADHD特有の衝動性や多動性を減らし、学校生活などに集中できるようなります。
コンサータの効果は服用して12時間程度なので、朝に服用すれば、学校にいる間は、ADHDの鎮静効果が持続します。
12時間程度経過して、薬の効果が切れると、またADHDの症状が現れ、根本的な治療はできません。
コンサータの副作用は、不眠傾向、食欲低下、不安増大、神経過敏などがあります。長期的な影響の指摘もありますが、医学的に確実なものではありません。6歳未満の幼児の有効性及び安全性は確立されていません。
自閉症の子への代表的な薬
商品名「オーラップ」(製薬会社アステラス製薬が販売)
オーラップは、自閉症を持つ子への、日本で認可されている治療薬です。
成分はピモジドで、錠剤です。情動、意欲、対人関係の異常行動、睡眠、食事、排泄の病的症状などに、安定した状態が得られます。
オーラップの副作用には、心身頻拍、突然死、悪性症候群、痙攣発作などがあります。